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「何をするかつ」
紛まがふことなく、それは神原喜作だつた。
ふいに、彼は頭を上げた。
「さあ、どうぞ。仇かたきの家へ行つても朝茶はのめ、と云ふことがありますよ。お茶ぐらいはのんでもらはんと――」
「はゝあ」
「芋の子」といふのが房一につけられた前からの綽名あだなであつた。それは小さく円く肥つた彼の身体の感じをよく現はしていたが、今ではそれを口にする人々の間に、或る納得しがたい性質、種族の異つた感じ、さういふ意味をいつとなく感じさせて来た。
川沿ひに細長く続いている河原町の通りは、地勢のせいでゆるい下り勾配をなしていた。所々で屋並みが切れて、そこには茶畑があつたり、空樽が乾してあつたりするかと思ふと、次の空地にはどこの家で使つているのか判らないやうな大きな井戸がその円く肥つた腹のやうな焼物の縁をたゞあつけらかんと日に照されていたりした。
「え」
「死んだんですか?」
「いや、そんなこたあ、――そんなこたあしませんよ」
房一は目を上げて何か訊きたさうにした。それを押へるやうに、
築地には四五本の木材が立てかけられて、玄関に通じる石畳の上には鉋屑が一杯に散らばつていた。その白いのや紅味がかつた真新しい木の色はふしぎな生気をこの家に与へていた。あの低い大きな屋根がぐつと身を起したやうにさへ見える。
「何でもいゝから早くしてくれ。路をまちがへて大廻りしちやつたんだ」