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「ほう、さうか。毎年あるのかね。そいぢや、これから度々見られるわけだな」
「それで――?あゝ」
徳次はしばらく考へていた。
男はまだ立つて、あの話を持ちかける構へといつた風を持していた。
「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」
「さうか、――そんなに何もかも、こつちでして貰つてもえゝか」
「やあ、今晩は」
ごろごろする石の上を下駄ばきでは歩きにくかつた。房一は川から上つたまゝの濡草履をはいているので速い。盛子は空からになつた追鮎箱を手にして後からついて行つた。
「何かの、それは」
市造は医者だと知つてすぐに起きなほつた。そして、房一が折鞄の中からまだ真新しい聴診器をとり出すのをたゞ無意味に眺めていた。誰に似たのか、市造は恐しく輪郭の整つた顔立ちだつた。あまりきつちりしているのでどこか寸がつまつて見え、硬い大人の面をかぶつた子供といふちぐはぐな感じにも見えた。たゞ、眼だけは紛れもない父親ゆづりの黒味のひろがつたあれだつた。
と後を追ふと、徳次は
馬喰達は出て行つた。徳次は残つた。一人でぶつぶつ云ひながら、宛かもそれで勇気をふるひ立たせようとするかのやうに、さかんに身体をぐらぐらさせた。その度に、彼の敵意は露骨になつていつた。橋本屋の主人は何とかしておとなしく引上げさせようと骨を折つた。が、それはかへつて徳次を興奮させた。主人の引きとめる手を払ひのけながら、彼はつひに鬼倉の前にどかりと坐りこんだ。
「もうこんなに暗くなつているのにね、何してるんでせう」